お酒に適した水
酒造業界には古くから「名水あるところに銘酒あり」という言葉があります。ビールもウイスキーも日本酒も本格焼酎も。造り手は主原料に勝るとも劣らず水にこだわり、理想とする水が豊富に得られる場所を求めて蔵を構えてきました。
たとえばアルコール度数25%の本格焼酎では、製品の75%が水。その水が酒の味わいに影響しないはずがありません。
直接的な仕込み水やアルコール度数調整の割り水のほかにも、原料となる麦や芋や米の洗浄・浸漬、タンクや甕といった容器の洗浄など酒造りには大量の水を必要とします。
では、どんな水が酒造りに適しているのでしょうか?
医療や精密機器の分野では、人工的にミネラル成分などを除去処理を施した「純水」が使われます。でも酒造りに適しているのは、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分がほどよく溶け込んだ天然水です。
水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量は「硬度」で表されます。WHO(世界保健機関)の基準では、
硬度0~60mg/L未満を「軟水」
硬度60~120mg/L未満を「中程度の軟水」
硬度120~180mg/L未満を「硬水」
硬度180mg/L以上を「非常な硬水」
と分類しています。
「軟水」はさらりとクセがなく、まろやかなのが特徴。「硬水」はザラっとして、少し苦味を感じますが、ミネラル補給には適しています。
ヨーロッパのミネラルウォーターには、硬度300mg/L以上の「非常な硬水」も少なくありません。広大なエリアの地下を水が長い時間をかけて流れていくために、その過程で地中のミネラル成分がたくさん溶け込むからです。
日本は国土が狭く、山から海までの傾斜が急なために水の流れが早いので、地中のミネラル成分がたくさん溶け込むことがありません。だから日本の水のほとんどは「軟水~中程度の軟水」に分類されます。
「軟水」の特徴として、よく言われるのが、和食に使う鰹節や煮干しなどのうまみ成分が抽出されやすいということ。素材の風味を活かした繊細な味つけには「軟水」が適しているのでしょうね。
日本酒では古くから「灘の男酒、伏見の女酒」と表現されてきました。その理由は仕込み水に含まれるミネラル成分量の違いで、灘の酒蔵が用いる水は硬度が高く、しっかりとした辛口の酒に仕上がり、それに比べて伏見の水は硬度がやや低いので、なめらかな風味に仕上がるから。
本格焼酎は蒸留するため、仕込み水のミネラル成分が原酒に移行することはありません。しかし蒸留した原酒はアルコール度数が40度前後あり、これを一般的な25度に調整するために割り水を行います。この割り水に含まれるミネラル成分は、そのまま本格焼酎のなかに含まれることになり、当然、酒質に影響するのです。
本格焼酎を水割りにする際には、ヨーロッパ製の硬度の高いミネラルウォーターではなく、日本の「軟水」ウォーターで割るのがおすすめ。やわらかな水で、今日もおいしい一杯を!
<参考文献>
マザー・ウォーター[酒と水の話] 編/酒文化研究所 発行/紀伊国屋書店